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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4178号 判決 1969年4月28日

原告

林善三

ほか一名

被告

株式会社出雲鋼材商会

ほか一名

主文

一、被告らは各自、原告林善三に対し金九四二、五九四円、原告林英子に対し金七四五、一〇四円、および右各金員に対する昭和四二年八月三一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は三分しその二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四、この判決第一項は仮りに執行することができる。

五、ただし、被告ら各自において、原告林善三に対し金七五〇、〇〇〇円、原告林英子に対し金六〇〇、〇〇〇円の各担保を供するときは、その者に対する仮執行を各免れることができる。

事実及び理由

第一申立

(原告ら)

一、被告らは各自、原告林善三に対し金四、三五九、九七六円、原告林英子に対し金三、六三二、三二六円、および右各金員に対する昭和四二年八月三一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件交通事故発生

とき 昭和四二年六月一〇日午後三時三五分頃

ところ 大阪市西区本田町三丁目六番地先

事故車 普通貨物自動車(大阪四ね五九九〇号)

右運転者 被告常松三樹

死亡者 林美穂(事故後直ちに内藤病院に入院したが、事故翌日同病院において死亡した。

態様 西進してきた事故車が林美穂に接触し跳ねとばした。

二、被告株式会社出雲鋼材商会(以下被告出雲鋼材商会という)の責任原因(自賠法三条)

被告出雲鋼材商会は事故車を所有し被告常松を雇傭してその営業を行つていたところ、本件事故当時被告常松はその業務執行のため事故車を運行していた。

三、原告らと亡美穂との身分関係ならびに相続

原告善三は亡美穂の父、原告英子は同人の母であり、美穂の死亡により、同人の権利を各二分の一宛相続した。

四、損害填補

原告らは自賠保険金一、五〇〇、〇〇〇円の支払を受け、これを、後記原告ら固有の慰謝料にそれぞれ七五〇、〇〇〇円宛充当した。

第三争点

(原告ら)

一、被告常松の責任原因

被告常松は左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告常松は事故車を運転して本件現場附近に差しかかつた際、前・側方に対する注意を怠つた過失により、事故車を美穂に接触させ、跳ねとばしたものである。

二、損害の発生

(一) 亡美穂の逸失利益

亡美穂は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

(1)職業

一般労働者(同女は健康な児童であつたから成長後少くとも一般労働者として稼働可能である)

(2)収入

一ケ月二四、八六七円(労働大臣官房統計調査部統計課編「毎月勤労統計調査」に基づく昭和四一年度常用労働者三〇人以上の事業所における産業別の女性常用労働者一人平均月間現金給与総額相当額)

(3)生活費

収入の二分の一、多くとも一ケ月一二、四三五円

(4)純収益

右(2)と(3)の差額、一ケ月一二、四三二円

(5)就労可能年数

事故当時の年令 七年

平均余命 六七・六八年

右平均命の範囲内で一八才から六三才まで四五年間就労可能。

(6)逸失利益額

亡美穂の前記就労期間中の逸失利益の事故時における現価は一、七六四、六五三円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による。ただし、二、七四三、五六八円の違算)

(算式) (年間収益) (五六年間のホフマン係数、一〇年間のホフマン係数)

一四九、一八四×(二六・三三五四-七・九四四九)=二、七四三、五六八円

(7)権利の承認

原告らは、第二の三身分関係ならびに相続分に基づき、亡美穂の右損害賠償請求権を各二分の一(八八二、三二六円)宛相続した。

(二) 原告善三の損害

同原告は後記精神的損害(慰謝料)の外に、左の如き損害を受けた。

(1) 療養費 合計二九、三八五円

第二の一の如く美穂は受傷後死亡するまで内藤病院に入院治療を受けたため左の如き費用を要した。

(イ) 入院、治療費 二六、七五〇円

(ロ) 入院雑費 二、六三五円

(2) 葬祭費 合計五四八、二六五円

亡美穂の葬祭のため左の如き費用を要した。

(イ) 葬儀費 三九二、六六五円

(ロ) 仏壇購入費 八一、二〇〇円

(ハ) 四九日の追善供養費 七四、四〇〇円

(3) 弁護士費用

原告善三が本訴代理人である弁護士に支払うべき費用は一五〇、〇〇〇円である。

(三) 精神的損害(慰謝料)

原告らに対する慰謝料は各三、五〇〇、〇〇〇円宛を相当とする。

右算定につき特記すべき事実は左のとおり。

原告善三は理容業を営み、営業成績も順調で、原告らは、何不自由なく、最愛の美穂の将来を楽しみに幸福な生活を営んでいたのに、不慮の事故により同女を失い、痛恨の極みと絶望感に打ちひしがれた。

三、本訴請求

以上により、被告ら各自に対し、原告善三は右二の(一)(7)(二)(三)の合計金五、一〇九、九七六円から第二の四の自賠保険金を控除した残額金四、三五九、九七六円(ただし充当関係は第二の四のとおり)、原告英子は右二の(一)(7)と(三)の合計金四、三八二、三二六円から第二の四の自賠保険金を控除した残額金三、六三二、三二六円(ただし、充当関係は第二の四のとおり)、および右各金員に対する本件不法行為による損害発生後である昭和四二年八月三一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

(被告ら)

一、運行者免責

(一) 被告常松の無過失

被告常松は事故車を運転し西進してきて本件現場に差しかかり対向車(東進車)とすれ違つた途端、美穂が道路北端から本件道路を横断しようとして、右対向車の直後から突然事故車の直前に走り出てきたため、被告常松において、美穂を回避することができな つたもので、また、同女が右の如く対向車の直後から走り出て来るのを予測することは不可能であつたから、同被告には本件事故発生につき故意、過失なく、本件事故は道路の安全を確認せずに対向車の直後から走り出て来た美穂の重大な過失により生じたものである。

(二) 被告出雲鋼材商会には本件事故発生につき何ら故意・過失なく、また、事故車には本件事故の原因となるべき構造ならびに機能の欠陥・障害はなかつた。

二、損益相殺

仮りに被告らに損害賠償義務があるとしても、原告らは美穂の死亡により、同女の扶養義務者として同女が生存したならば支出すべきその養育費の支払を免れたのであるから、賠償額から右養育費を控除すべきである。

三、過失相殺

仮りに被告らに損害賠償義務があるとしても、美穂には本件事故発生につき前記一(一)の如き過失があつたから、損害額算定につきこれを斟酌すべきである。

四、美穂の逸失利益に対する反論

通常の女性であれば、二五才前後に結婚し、結婚の前後に退職して家事労働に従事するのが通常であるから、美穂も二五才までしか就労しなかつた筈である。

第四証拠〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告常松の責任原因

被告常松は左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠 民法七〇九条

該当事実 左のとおり。

(一)  本件事故の状況

〔証拠略〕によれば左の事実が認められる。

(1) 本件現場は、南北に通じる道路が東西に通じる道路と変形に交差する場所で、両道路ともアスファルトで舗装されており、東西路は、交差点から西方が幅員一一メートルで歩道と車道の区別はなく、交差点から東方が幅員七・二メートルの車道の両側に幅員各二メートルの歩道が設けられており、南北路の幅員は七・二メートルで、本件交差点には信号機および横断歩道はなく、交通量頻繁で、附近は家屋や商店が密集している(別紙現場見取図参照)。

(2) 美穂は本件事故当時七才(小学校二年)で同級生二人とともに、東西路北側を歩いて西方から本件交差点に至り、同交差点南方にある文房具店に行くため東西路を横断する態勢で、交差点北西のすみ切りから南方二・四メートルの附近に佇立していた。

そして、美穂は一台の東進車が通過直後交差点南西角に向つて走り出した。

(3) 被告常松は、事故車を時速二五ないし三〇キロメートルで運転し、東西路の南側中央寄りを西進してきて本件交差点に差しかかつた時、右前方約一一・五メートルの交差点北西のすみ切り南方に美穂ら三名が佇立しているのを発見したが、一べつしただけで、同女らはそこで遊んでおり東西路を横断することはないものと考えてそのまま交差点に進入したところ、折から対向してきた車輛(前記東進車)の蔭になつて美穂らの姿を確認できないまま交差点中心附近で対向車と離合した直後、右前方約三・七メートルの地点に美穂が交差点南西角に向けて走り出てくるのを発見し、突嗟に急停止の措置を採つたが及ばず、約四・二メートル進行した地点で、事故車右前部を同女に接触させて跳ねとばした。〔証拠略〕中、右認定に反する部分は前掲証拠に照らし容易に措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  被告常松の注意義務違反

以上認定の事実に基づけば、被告常松は事故車を運転し、西進してきて本件交差点に差しかかつた際、本件交差点の交通は頻繁で、美穂ら三名が事故車の右前方わずか約一一・五メートルの交差点北西すみ切り南方約二・四メートルの地点から交差点南西へ横断しようとする態勢にあり、しかも折から接近してきた対向車の蔭になつて同女らの挙動を一時確認できなくなることは明らかであつたから、美穂らの態勢を注視して横断しようとしていることを確認するとともに、当時小学校二年生の児童であつた美穂が、東進車に対する安全にのみ注意を奪われ、東進車の通過直後西進車の有無を十分確認せずに横断しようとすることがあり得ることを予想し、あらかじめ警音器を吹鳴して事故車の接近を知らせるとともに直ちに減速して進行すべき注意義務があるに拘らず、漫然と、美穂に対する注視を怠つて同女は交差点北西角附近で遊んでいるもので交差点南西角へ横断する態勢にないものと誤信し、警音器の吹鳴および減速の措置を採らないまま進行した過失があるといわなければならない。

二、被告出雲鋼材商会の運行者免責の抗弁

本件事故は前示一の如き被告常松の事故車運行上の過失によつて生じたものと認められるので、被告出雲鋼材商会の運行者免責の抗弁はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

三、損害の発生

(一)  亡美穂の損害

亡美穂は本件事故のため左のとおり損害を受けた。

(1) 職業ならびに稼働可能年数

(イ) 〔証拠略〕によれば、美穂は本件事故当時満七才で、普通健康体の正常な女子であり、美穂の父親である原告善三は義務教育修了後理容師となり、現在店員七名を雇傭して理容業を営んでいることが認められ、右事実と、昭和四二年簡易生命表によれば満七才の普通健康体の女子の平均余命年数は六八・五三年であり、厚生省大臣官房統計調査部編昭和四〇年人口動態統計(上巻二二九頁)によれば昭和四〇年度の女子の平均初婚年令は二四・五才であることを併せ考えると、特別の反証のない本件においては、美穂は本件事故にあわなければ七五才まで生存し、少くとも高等学校を卒業してその後一般労働者として勤務を始め、遅くとも二五才に達するまでに結婚したであろうと推認される。

ところで一般に女子は結婚と前後して退職し、主婦として家事労働に従事するのが経験則上今なお通常と認めるのを相当とするから、特別の事情の認められない本件においては美穂の一般労働者としての稼働期間は結婚までであると認めるのが相当である。

(ロ) 原告らは、美穂は二五才以降も一般労働者として勤務を継続するものとして同女の得べかりし利益喪失による損害を請求しているが、右認定によれば美穂の得べかりし利益喪失による損害は二五才に達するまでのものしか認められない。

すなわち、従来の判例における伝統的な考え方によれば、得べかりし利益とは、被害者が被害当時現に有していたかまたは将来取得することが出来た筈の収入を意味するのであるから、美穂が主婦として家事労働に専従すると推認される二五才以降については、その得べかりし利益を肯認することは出来ない。

しかし、人間が死亡または傷害により稼働能力の全部または一部を喪失した場合には、その能力喪失自体を損害とみてこれに対する賠償を認めるべきものであり、従来の判例が右の場合に得べかりし利益喪失による損害の賠償を認めてきたのも、右稼働能力喪失自体の損害を評価する一方法にすぎず、したがつて、稼働能力喪失自体の損害を評価するにあたり右の方法が採用できない場合には、これに代わる方法を採用することが許されるものと解するのが相当である。そして本件において原告らは、美穂が死亡により稼働能力を全部喪失したことによる損害を主張するにあたり、一般労働者としての勤務継続を仮定し、その得べかりし利益喪失による損害という方法を採つたにすぎないと解すべきであるから、前記のような得べかりし利益概念に従うかぎりその評価が出来ない二五才以降における稼働能力喪失自体の損害につき、その他の評価方法を採用しても弁論主義に反するものではない。

そこで、美穂が結婚し主婦に専従する同女の二五才以降の損害について考察すると、女子は結婚したことによつて稼働能力自体を失うものではなく、いつでも必要に応じ自己の意思によつて稼働能力を働かせ賃金等の収益を得ることが出来るものであるから、主婦が生命を侵害された場合にはこのような稼働能力自体を失つたことによる財産的損害を受けるものと認められる。このような稼働能力自体の算定は、被害者の受けた教育、技能、健康状態等諸般の事情を綜合考慮してなすべきであるが、幼女の場合にはこれを算定する何らの手掛りもないので、稼働能力の対価というべき賃金の統計上の平均値を利用して損害の算定をするのも現状ではやむを得ない。

そして、美穂の前記健康状態、最終学歴および余命からすれば五五才まで一般労働者として稼働し得たものと推認される。

(2) 収入

(イ) 一八才から二五才に達するまで

労働省労働統計調査部「昭和四二年度賃金センサス・賃金構造基本統計調査」(七五頁)によれば、昭和四二年四月における高校卒業以上の学歴を有する女子労働者全国企業規模一〇人以上の全産業平均年令別年間賃金は、一八才から一九才までが二四二、三〇〇円であり、また美穂は前記の如く正常な発育状態にあつたことからすれば、同女は一八才から二五才まで年間二四二、三〇〇円の収入を得ることができた筈であると認められる。

(ロ) 二五才から五五才に達するまで

美穂の二五才から五五才までの稼働能力自体の喪失による損害については、前記高校卒業以上の学歴を有する一八才から一九才までの女子労働者の平均年間賃金、美穂の学歴、健康状態からすれば、右平均賃金を下ることはないものと認められるから、美穂は二五才から五五才まで毎年二四二、三〇〇円の収入を得ることのできる能力を失い、それに相当する損害を受けたものというべきである。

(3) 生活費

美穂の収入、職業等からすれば、美穂の個人生活費は、一八才から五五才までを通じ、収入の五〇パーセントを超えないものと認められる。

(4) 純損害

右(2)と(3)の差額、年間一二一、一五〇円

(5) 現価

亡美穂の前期稼働期間中の純損害の事故時における現価は一、九六〇、三七六円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による。ただし円未満切捨、以下同じ)

(算式) (年間純益) (四八年間のホフマン係数一〇年間のホフマン係数)

一二一、一五〇×(二四・一二六三-七・九四四九)=一、九六〇、三七六円

(6) 養育費の控除

原告らは、美穂の両親として、本件事故により美穂が死亡したことにより、扶養義務の履行としてなすべき美穂に対する養育費の支出を免れたところ、当時七才であつた美穂が、本件事故にあわなかつたとして、一八才から稼働して前示の如き収入をあげるには、扶養義務者である原告らの養育によつて成長し一八才になるまでに稼働能力を取得することが不可欠の前提条件であるから、それまでに要する同女の養育費は、同女が前示収入をあげるための必要経費といい得べきものである。

そこで、右養育費の支出を免れたことによる利益は、被害者である美穂につき生じたものでなく、同女の両親である原告らにつき生じたものであるから、養育費の支出が不要となつたことをもつて、直ちに美穂の前示損害と損益相殺すべき利益であると解することはできないが、右利益を受けた(いわば経費の出費を免れた)親権者である原告らが、相続によつて、原告らの養育費(経費)の支出を前提とする美穂の右損害賠償請求権を承継する限り、右損害から右利益を控除すべきものと解するのが、不法行為に基づく損害賠償の範囲を定めるにあたり依拠すべき衡平の理念に適合するものというべきである。

しかして、原告らが、当時七才であつた美穂を一八才まで養育するには少くとも一ケ月五、〇〇〇円を下らない費用を要するものと認めるのが相当であるから、その利得額からホフマン式計算により年毎に年五分の割合による中間利息を控除してその現価を算定すると

(算式) (年間金額) (一〇年間のホフマン係数)

六〇、〇〇〇×七・九四四九=四七六、六九四円となること明らかである。

よつて、亡美穂は、右(5)から(6)を控除した残額金一、四八三、六八二円相当の損害を受けたものと認められる。

(7) 権利の承継

原告らは、第二の三の身分関係ならびに相続分に基づき、亡美穂の右損害賠償請求権を各二分の一(七四一、八四一円)宛相続した。

(二)  原告善三の財産的損害

(1) 療養費 合計二九、一五〇円

〔証拠略〕によれば、原告善三は、美穂が第二の一の如く受傷後死亡するまで内藤病院に入院治療を受けたため、同女の入院治療費二六、七五〇円、入院雑費二、四〇〇円、合計二九、一五〇円を支出したことが認められる。

なお、〔証拠略〕によれば、売薬購入費として五五〇円を支出したことが認められるが、さらに進んで右購入した薬品の種類ならびにこれを美穂の治療のために使用したことを認めるに足りる証拠はないので、右認定の事実によつては右売薬購入費をもつて本件事故のため生じた損害と認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(2) 葬祭費 合計一五〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告善三は、美穂が死亡したため、同女の葬儀費一八七、九四五円、仏壇購入費八一、二〇〇円、四九日の追善供養費七五、〇〇〇円を支出したことが認められるが、右三(一)(1)(イ)の如き美穂の年令原告善三の社会的地位、職業等に照らすと、右支出のうち本件事故と相当因果関係にある損害は金一五〇、〇〇〇円の限度であると解するのが相当である。

(3) 弁護士費用 一五〇、〇〇〇円

弁護士費用は不法行為から直接生じた損害ではなく、相手方の不履行もしくは不当な抗争によつて、損害の賠償を求めるため必要とした費用であるから、不法行為との関係ではいわば第二次的な間接損害であつて、通常生ずべき損害と解することは困難である。しかしながら、不法行為が行われた場合に、加害者が責任原因・損害額等を争い、その賠償を行わないときは、被害者は加害者に対し訴を提起してその損害の賠償を求めるの外なく、その際、我が国においては弁護士強制主義を採つていないが、実際上は法律的な素養のない当事者本人が自ら訴訟の遂行にあたることはむしろ例外で、実務の経験を積んだ法律的素養のある弁護士に依頼して訴訟その他の手続を遂行することがむしろ通常であるから、弁護士費用が不法行為によつて通常生ずべき損害ではなく特別の事情によつて生じた損害であるとしても、加害者は賠償義務の任意の履行を拒絶し、責任原因および損害額を抗争する限り、右弁護士費用の支出を、当然、予見し得べき筈であるというべく、従つて、このような場合、加害者は被害者が負担を余儀なくされた弁護士費用のうち諸般の事情からみて相当と認められる範囲の額を賠償する義務があると解するのが相当である。

そこで本件についてみると、〔証拠略〕によれば、本件事故後被告出雲鋼材商会は原告らに対し自賠保険金のほかに一、二五〇、〇〇〇円を支払う旨申入れたが、残余の賠償を拒絶し、被告常松は被告出雲鋼材商会に示談交渉を委ねたままで放置したこと、そこで原告善三は本訴代理人である弁護士に対し本訴の提起を委任し、その主張の如き金員を支払つたことが認められる。そこで右認定の事実および本件事案の内容、審理の経過、認容すべき損害額ならびに当裁判所に顕著な日本弁護士会および大阪弁護士会各報酬規定に照らすと、原告善三が支出した前記弁護士費用は、本件交通事故に基づく損害賠償の目的を達するために相当な額であると認められる。従つて、被告らは各自、原告善三に対し右金額を賠償すべき義務がある。

(三)  精神的損害(慰謝料)

原告らに対する慰謝料は各一、七五〇、〇〇〇円宛を相当とする。

右算定につき特記すべき事実は左のとおり。

(イ) 前記の如く、美穂は本件事故当時七才で、原告らは同女の両親である。

(ロ) 原告善三は理容業を営んでいたところ、営業成績は順調で、原告英子とともに、美穂の成長を楽しみに愛育していたのに、本件事故により突然同女を失い、甚大な精神的苦痛を受けた。

(証拠 原告両名各本人尋問の結果)

四  過失相殺

第五の一(一)の事実に基づけば、美穂は本件事故当時七才で小学校二年生であつたから事理弁護の能力を有していたものと認められるところ、美穂は本件交差点を南西角へ向けて横断する際、東進車の有無ばかりでなく西進車の有無も確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、西進車の有無を確認せずに横断しようとして本件事故の発生をみたものと認められるから、美穂の右注意義務の懈怠が、本件事故の一因といわざるを得ない。

よつて、美穂の右過失と被告常松の前記過失の程度を勘案すると、美穂ならびに原告らの損害についてその四〇パーセントを過失相殺するのが相当と認められる。

五、結論

以上により、被告らは各自、原告善三に対し、右三(一)(7)と(二)(三)の合計金一、六九二、五九四円(ただし、いずれも同四で過失相殺した額)から、第二の四の自賠保険金を控除した残額金九四二、五九四円(ただし充当関係は第二の四のとおり)、原告英子に対し右三(一)(7)と(三)との合計金一、四九五、一〇四円(ただし、いずれも同四で過失相殺した額)から第二の四の自賠保険金を控除した残額金七四五、一〇四円(ただし、充当関係は第二の四のとおり)、および右各金員に対する本件不法行為による損害発生後であること明らかな昭和四二年八月三一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべく、原告らの本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 大喜多啓光 谷水央)

現地見取図

<省略>

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